最新レポート:急成長するインドの旅行・観光産業 【後編】
コロナによる打撃とコロナ後のニューノーマル
コロナの救済措置を受けられなかったインドの観光産業

国際航空運送協会(IATA)が4月下旬に発表したレポートは、アジア太平洋地域において新型コロナの感染拡大がもたらした航空業界の惨状を伝えている。中でも緊急に政府が救済措置を講じるべき国として、インドと日本を含む8カ国の国名を挙げた。インドの航空業界では300万人の雇用が脅かされていると警鐘を鳴らした。
コロナによる被害が甚大で、かつ観光業への依存が大きいイタリアやスペイン、シンガポール、香港などの政府は、すでに観光業界への財政支援を発表している。
一方インドでは、インド政府がGDPの10%相当を拠出するという総額20兆ルピーのコロナ対策支援パッケージが5月12日に発表されたが、観光業界に対する財政支援が一切盛り込まれなかったことに業界からは失望と不満の声が上がった。
ロックダウンがもたらした壊滅的打撃
インドのロックダウンは3月25日に始まった。段階的に行動制限や経済活動が緩和されたものの、2ヶ月以上も休業を強いられた航空・ホスピタリティ・観光業界の出血は深刻だ。2018-19年の観光省統計によると、観光業界はGDPの5%相当を貢献し、 国内の雇用機会の13%を創出している。
国内線の運航は、ロックダウン開始から2ヶ月後の5月25日に3分の1未満の便数で再開した。国際線については、6月中旬時点でもなおメドが立っておらず、プリ航空相は7月中に運航再開日を決定するとしている。
ホスピタリティ業界では、ロックダウンが解除された6月8日に、ホテルやレストラン、寺院や観光地の再開が認められた。とはいえ、客足はまだまだ平常時からは程遠いのが現状だ。
インド政府による20兆ルピーの救済パッケージの主な中身は、中小零細企業向け融資と出稼ぎ労働者への生活支援だった。観光業界の担い手の大半が中小企業であることを考えると、 彼らはある程度は救済されたのかもしれない。
大手企業が5月下旬から続々とリストラを発表したことはすでにニュース記事でも取り上げた通りである。例えば、トーマス・クックのインド法人は約350人を解雇、オンライン旅行サイトのMakeMyTripは350名を一時解雇している。直接的・間接的に観光業に関わる人々のうち最大5,000万人の雇用が喪失すると、インド観光・ホスピタリティ協会連盟 (FAITH) が発表している。
ホテル業界については、ロックダウン期間中にコロナ感染者の隔離施設などに利用されたホテルもあるが、全体として8割以上のホテルがロックダウン期間中は休業状態であった。HVS Anarock’s Hotels & Hospitalityが6月2日に発表したレポートによると、インドの4月における客室稼働率は前年比で81%も減少した。5月もほぼ同様の数字になるという。稼働率の落ち込み方から言えば、インドは世界最悪の水準であるいう。
インド国内にある宿泊部屋数の87%を占める、独立系ノンブランドホテル(ゲストハウスやホステルを含む)は、物件の大半を賃貸契約で借り上げているため、コストの4割近くを占める家賃支払いに頭を悩ませている。BWHotelierが伝えたコラムによると、10~15室規模の独立系ホテルの閉鎖が相次ぐだろうと予測している。